sanuki_story
2026年07月15日配信
2026年、世界中でラーメンが食べられ、うどん専門店が海外に増えている。しかし、日本の麺をおいしいと感じる人が、その理由をうまく言葉にできないことがある。
「なんか、食感が違う」「噛んだときの感じが独特」「他の国の麺とは別物」
その「何か」の正体が、コシだ。
コシとは、麺を噛んだときに感じる弾力・もちもち感・歯ごたえ・反発力の複合的な食感を指す。
ひとつの言葉で言い表せるものではない。強さがある。弾む。もちもちしている。噛み切ったときに、スパッと切れる。その全部が合わさったとき、私たちは「コシがある」と言う。
重要なのは、この概念を一語で表す言葉が、日本語以外に存在しないということだ。
英語で「コシのある麺」を表現しようとすると、必ず複数の言葉が必要になる。
"Chewy, springy, bouncy, al dente"
どれも近いが、正確ではない。「chewy」はもちもち感を表すが、コシの弾力感は含まない。「al dente」はパスタの固さを指すが、日本の麺のコシとは別物だ。
中国語では「劲道(jìn dào)」という表現があるが、これも「讃岐うどん特有のコシ」を説明する言葉としては不十分だ。
コシは、日本語でしか表現できない概念だ。
これはUMAMI(うま味)と同じ構造である。「おいしい」を超えた第5の基本味として、科学的に証明されるまで世界に「umamiに相当する言葉」は存在しなかった。コシも同じように、他の言語では代替できない概念として日本の麺文化の中に存在している。
コシがある麺として世界に知られているのが、讃岐うどんだ。
今から約1200年前。空海(弘法大師)は31歳で中国・唐に渡り、製麺の技術を日本に持ち帰った。帰国後、空海の故郷である讃岐(現・香川県)でうどん作りが根付いていった。
現在も香川県綾川町滝宮には「うどん発祥の地」の石碑が残っている。讃岐は、コシのある麺が生まれた場所だ。
コシは、偶然に生まれるものではない。製法の中に、コシを生み出す工程が存在している。
讃岐の手打ちうどんで行われる工程を順番に見てみよう。
ネリ(練り)
塩水が小麦粉のグルテンを引き出す。超低速でゆっくりと練り上げることで、グルテン組織を破壊せずに形成していく。
足踏み(鍛え)
練り上がった生地を繰り返し踏み込む。グルテンは縦横無尽に力を加えることで強い粘りを発揮する。足踏みの土踏まず・つま先・かかとが作る凹凸が、生地の深部までグルテン形成を促す。
団子作り(菊もみ)
寝かしにより緩和された生地を再度鍛える。グルテン組織が再活性化し、より強靭な網目状の構造が構築される。
荒延ばし
生地をたて・よこ・ななめと方向を変えながら延ばしていく。グルテンをさらに活性化させ、網目状の組織を強化する。
仕上げ延ばし
グルテンの網目状組織に沿って、少しずつ薄く仕上げていく。
包丁切り
刺身を切るような「引き切り」で麺線に仕上げる。押し切りとは違い、組織を破壊せず、角が立った麺になる。
この全工程を経ることで、初めてコシのある麺が生まれる。コシは、職人技の積み重ねの産物だ。
かつて、コシのある麺は手打ちでしか作れなかった。しかし1910年、讃岐(香川県)でさぬき麺機は創業し、一つの問いに挑み続けてきた。
「手打ち職人の技術を、機械で完全に再現できないか」
足踏みを再現する「波ロール」。包丁の引き切りを再現するカッター。縦横に延ばす「すかし打ち」を再現する樹脂製ロール。
115年間の技術開発の末、さぬき麺機は「コシを数値でコントロールできる製麺機」を実現した。加水率・圧延回数・鍛えの強さを設定することで、意図した通りのコシを安定して再現できる。
コシは今、手打ちの職人がいなくても作れる時代になっている。
コシという概念は、うどんだけに留まらない。
近年急増している多加水ラーメンは、まさにコシを追求した麺だ。もちもちとした食感・弾力・歯ごたえ——コシを求める方向性は、うどんとラーメンで同じだ。さぬき麺機の手打ち式製麺機は、うどんだけでなく多加水ラーメン・そば・パスタ・餃子の皮まで対応している。
1200年前に讃岐で生まれたコシの概念が、今や日本のあらゆる麺文化を支えている。
1200年前に讃岐で生まれたコシという概念は、職人の体の中にだけあった。それを機械で再現し、数値でコントロールできるようにしたのが、1910年創業のさぬき麺機だ。
コシは翻訳できない。しかしコシを作る技術は、今や世界中の麺に応用できる。